フクロウ42羽死亡事件
ニッチク薬品工業の準備書面(1)5頁には、参考製品の写真にあった「360.00gm」をグラム量として扱い、ミリグラムへ換算して製品規格を「360,000.000mg」とした経路が記載されています。同社の被告最終準備書面11頁は、原告の事後説明(2021年5月11日面談時の説明)として、MVS-30の本来のビタミンB6含有量は360 mg/kg、写真の「360.0gm」は誤表記だったと記載しています。同書面は、ニッチクにはこの表示が誤表記であると知る余地はなく、原告が指定した設計どおりに製造したとの立場を取っています。同書面記載の360 mg/kgと製品規格360,000 mg/kgを比較すると、1,000倍です。
要点
- 確認事実判決書の前提事実によれば、OWLPRO-MIXを138羽に給与し、2021年4月11日から13日までに42羽が死亡した。個体ごとの死因がすべて同一であることまで確定した資料ではない。
- 確認事実製品規格はピリドキシン塩酸塩360,000 mg/kg(36%)。日本食品分析センターの2023年8月21日付試験では370,000 mg/kg、ピリドキシン換算304,000 mg/kgが報告された。分析値は製品規格と概ね整合している。
- 当事者説明吉川氏は、事故直後にMVS-30旧パッケージの360 mg表記を発見し、ニッチク側へ誤りを指摘したと説明している。
- 確認事実ニッチク被告最終準備書面11頁は、原告の事後説明(2021年5月11日面談時の説明)として、MVS-30の本来のビタミンB6含有量は360 mg/kg、原告がMPアグロへ提供したMVS-30パッケージの「360.0gm」は誤表記だったと記載している。同書面は、ニッチクには上記表示が誤表記であることを知る余地はなく、原告が指定した設計どおりに製造したに過ぎないとの立場を取っている。同書面記載の360 mg/kgとOWLPRO-MIX規格360,000 mg/kgとの差は1,000倍である。
- 確認事実第一審は請求を棄却したが、B6が無毒であるとか42羽の死亡原因ではないと科学的に確定した判決ではない。個体別の因果関係と損害額は実質判断されていない。
- 確認事実2024年4月2日の控訴取下書に、取下げ理由の記載はない。
事実経過
日本農産工業が販売した競走馬用カルシウム剤「グリーンカル」をめぐり、JRAで競走除外が発生した。本件とは別事案であり、この事実だけからOWLPRO-MIXの欠陥や責任を推認しない。
確認事実証人尋問調書は、MVS-30を参考とする製造相談が2020年7月であったことを支える。
確認事実事故後の2021年4月12日、5月11日、5月12日の録音・反訳には、北海道の施設(5月11日録音では動物園)で人用ビタミン剤を与えられたフクロウに死亡例があったことを伝え、安全な設計を求めた旨の会話がある。赤松氏尋問調書13〜14頁も「北海道の施設」「ふくろう」と記録しており、種は特定していない。
確認事実2021年2月10日、あすかアニマルヘルスの担当者は、英語表記とg・mg・%が混在するMVS-30表示を自ら調べた内容について、ニッチク薬品工業の担当者へ換算確認を依頼し、検討用のExcelを添付した。
確認事実2月17日、ニッチク薬品工業の担当者はExcelへ検討内容を追記し、製品内容・製造工程を複数回見直したとして、見積書、規格書、ラベル案、編集済みExcelを返送した。
確認事実2021年2月17日17時31分、あすかアニマルヘルスの坂井氏からMPアグロの赤松氏へのメール(件名「ふくろうミックス」)には、ユッカ抽出物は「適量が不明、過剰時の副作用を懸念」、BHT及びBHAは「多いのは危険」として削除し、亜セレン酸ナトリウムはセレン酵母へ変更すると記載されている。同じメールには、20 kg単位製造で微量の計量が困難なため、1 g/20 kg未満の成分を1 gとして扱う旨も記載されている。
確認事実一方、後のニッチク準備書面(1)5頁には、ユッカ抽出物は含有量が微量(0.11 mg)で、20 kg単位製造による微量の再現が困難であることを理由に削除したと記載されている。亜セレン酸ナトリウム、BHT及びBHAは、本飼料自体は適用対象ではないものの、飼料安全法に関する省令や行政からの通達等により混入量が制限されている成分であること、及びニッチクにフクロウに関する知見がなく許容量も不明であったことを理由に除外して再現したと記載されている。したがって、同時期メールと後の準備書面では、ユッカ抽出物等の変更・除外理由の説明が異なる。
確認事実ピリドキシン塩酸塩は360,000 mg/kgのまま維持された。対象動物試験、体重当たり曝露量、安全係数、同等製品実績による安全確認は、現行資料で確認できていない。
確認事実2月24日〜3月12日のメールでは、ガーリック削除、表示、製品名、用途、給与量、溶解性、粒度、包装等が協議された。発注側の商品企画・表示上の関与と、企業側の換算・処方・規格形成への技術的関与は区別する。
判断不能OWLPRO-MIXの正確な製造年月日は、現行の一次資料だけでは特定できない。設計・規格・表示の形成過程として確認できる中心期間は2021年2月10日〜3月12日である。
確認事実判決書が前提とした経過は、138羽への給与後、3日間に42羽が死亡したというもの。
判断不能病理・獣医所見、死亡個体の写真・記録、事故直後の録音等は保全されているが、個体別摂取量と全個体の死因を一律に確定するには不足が残る。
成分値と比較の正確な読み方
| 項目 | 確認値 | 意味・限界 |
|---|---|---|
| MVS-30 | 事故後確認:360 mg/kg設計参照写真:360.0gm | 吉川氏は、事故後に旧パッケージの360 mg表記を発見し、ニッチク側へ誤りを指摘したと説明している。ニッチク被告最終準備書面11頁は、原告の2021年5月11日の事後説明として、本来値360 mg/kg、提供されたパッケージ表示360.0gmは誤表記だったと記載している。ニッチクが本来値を独立に確認したとの記載ではない。 |
| 書面記載の換算経路 | 360.0gm→ 360,000 mg/kg | ニッチク準備書面(1)5頁には、提供写真の「360.00gm」をg量として扱い、mgへ換算して規格値を「360,000.000mg」とした経路が記載されている。 |
| OWLPRO-MIX 規格 | ピリドキシン塩酸塩 360,000 mg/kg(36%) | 設計・規格値。分析結果とは区別する。 |
| 試料分析 | ピリドキシン(塩酸ピリドキシンとして)370,000 mg/kg | 日本食品分析センター。試料提出2023年8月14日、成績書2023年8月21日、HPLC。分析対象は提出された検体「オールプロミックス」。 |
| 同分析の換算値 | ピリドキシンとして304,000 mg/kg | 第23083068号-別添。塩酸ピリドキシンからの換算係数0.8227による、成績書に記載された換算値。別の測定結果ではない。 |
| 家禽資料の参考水準 | ピリドキシン 4,000 mg/kg 飼料 | 甲14の表3.4.15は「ピリドキシン」4,000 mg/kgと記載し、「塩酸ピリドキシン」とは記載していない。家禽用飼料で過剰障害のおそれのある水準。フクロウの致死量ではない。 |
| 書面記載値との比較 | 360 → 360,000 = 1,000倍 | 被告最終準備書面11頁が原告の事後説明として記載するMVS-30の360 mg/kgと、OWLPRO-MIXの規格値360,000 mg/kgを、製品1 kg当たりで比較した差。 |
| 家禽資料との濃度比較 | 370,000 ÷ 4,000 = 92.5倍 | 記載値同士の単純濃度比として、本件製品の分析値370,000 mg/kgは、家禽資料の過剰障害のおそれのある水準4,000 mg/kgの92.5倍。規格値360,000 mg/kgとの比較では90倍。いずれも記載値同士の単純濃度比である。分子は塩酸ピリドキシンとしての値、分母資料は「ピリドキシン」と記載されており、同一化学形の比較であることは確認できない。また、異なる製品形態の濃度比較であり、フクロウの致死量に対する倍率を示すものではない。 |
分析資料
- 確認事実一般財団法人日本食品分析センター「分析試験成績書」第23083068001-0101号、2023年8月21日付。試料名:オールプロミックス。
- 確認事実提供された成績書のスキャンPDFを確認。検体名は「オールプロミックス」、試料提出日は2023年8月14日。分析項目「ピリドキシン(塩酸ピリドキシンとして)」の結果は370,000 mg/kg、分析方法は高速液体クロマトグラフィー。
- 確認事実「第23083068号-別添」には、ビタミンB6(ピリドキシンとして)換算値304,000 mg/kgと記載されている。注記は「塩酸ピリドキシンからの換算:換算係数0.8227」。これは同じ分析結果からの換算値であり、別の独立した測定値ではない。
- 判断不能この分析書を裁判へ書証提出したこと、及び対応する甲号証番号は、現行資料で確認できていない。
資料提供者から受領したスキャンPDFを内容変更せず収録しています。
原因評価の境界
時間的関連、製品中B6濃度、病理所見、事故後記録は、B6過剰曝露を主要仮説として検討する根拠になります。一方、実際の餌中濃度、希釈率、個体別摂取量、個体ごとの死因が未確定であるため、本ページは「42羽すべてがB6中毒で死亡した」とは確定表現しません。
裁判手続と判決の射程
| 日付 | 手続 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 2022年4月19日 | 大阪地裁へ提訴 | 訴状の日付・受付日。令和4年(ワ)第3255号。 |
| 2023年6月8日 | 口頭弁論終結 | 第一審判決書記載。 |
| 2023年10月4日 | 第一審判決 | 請求棄却。企業側の法的責任を認める判断はされなかった。 |
| 2023年10月18日 | 控訴 | 控訴状の日付・受付日。大阪高裁 令和5年(ネ)第2325号。 |
| 2024年2月8日 | 控訴審第1回期日 | 弁論終結、判決期日として4月25日が指定された。所要時間・審理内容に関する評価は本人説明。 |
| 2024年4月2日 | 控訴取下げ | 受付印付き控訴取下書。理由の記載はなく、第一審判決が確定。 |
第一審が判断したこと
- 契約は、参考製品の情報と原告側の希望を出発点とする個別製品の取引であり、安全な飼料を供給する合意までは認められない、と判断した。
- MPアグロに危険性を指摘・警告する義務は認められず、ニッチク製品について通常有すべき安全性を欠く欠陥も認められない、と判断した。
- その結果、MPアグロに対する債務不履行責任、ニッチクに対する製造物責任に基づく請求はいずれも棄却された(判決書13〜14頁)。
第一審が実質判断していないこと
- B6が42羽それぞれの死亡原因であったかという個体別因果関係、及び損害額は、請求棄却の前提として実質判断されていない。
- 判決理由には水溶性ビタミンに関する一般論が現れるが、「B6には毒性がない」「過剰摂取被害は存在しない」という一般的な科学命題を確定した判決とは読めない。
控訴取下げについて
- 確認事実2024年4月2日付の控訴取下書に、取下げ理由の記載はない。
- 当事者説明本人は、短時間での結審後も、見舞金による和解、民事調停法17条による解決案、裁判長との話合いが順次示され、判決を求めても非判決的な解決案が続いたことで裁判所への信頼を失ったと説明している。代理人の期日手控え・メールが一部を補強する。
- 当事者説明本人は、第一審判決を確定させ、事件を自ら社会へ公開する判断が実際の動機であったと説明している。控訴取下げを第一審判決への同意とは扱わない。
関係企業と確認できる関与
資本関係は、公式表示を再確認した2026年9月9日時点の整理です。企業関係から個別の法的責任を推定しません。
| 企業 | 本件で確認できる位置 | 資本関係・表現上の限界 |
|---|---|---|
| ニッチク薬品工業株式会社 | OWLPRO-MIXの製造、原料置換・削除、規格・ラベル案、製造工程の検討 | 日本農産工業のグリーンカル調査報告は「弊社子会社」と明記。現在のグループ会社一覧にも掲載されている。 |
| 日本農産工業株式会社 | 公式報告でニッチクを自社の子会社と記載 | 会社概要は、株主を三菱商事株式会社(100%)と表示。 |
| 三菱商事株式会社 | 日本農産工業の100%株主として上位グループに位置する | 東証プライム 8058。ニッチクの「直接の親会社」とは表現しない。 |
| あすかアニマルヘルス株式会社 | 企業間連絡、製品企画・規格・表示・販売経路への関与。製品ラベル上の販売元。訴訟では補助参加人 | 会社概要は、株主をあすか製薬ホールディングス株式会社(100%)と表示。 |
| あすか製薬ホールディングス株式会社 | あすかアニマルヘルスの親会社 | 東証プライム 4886。親会社であることだけで本件行為・責任を同一視しない。 |
| MPアグロ株式会社 | 吉川氏との取引窓口・販売経路 | 会社案内に、メディパルホールディングスの連結子会社と記載。 |
| 株式会社メディパルホールディングス | MPアグロの親会社 | 東証プライム 7459。親会社であることだけで本件行為・責任を同一視しない。 |
未解明として残る事項
- MVS-30の旧パッケージにあった360 mg表記と、設計時に提供された写真の「360.0gm」を経て、OWLPRO-MIXの360,000 mg/kgへ至った換算・確認過程の全容。
- B6維持の最終決裁者、社内承認経路、フクロウを対象とした安全性評価の有無。
- 実際の餌中濃度、希釈率、個体別摂取量、42羽それぞれの死因。
- 事故後の各社調査、回収判断、再発防止措置の全容。
三菱商事からの回答
確認事実公開投稿に掲載された回答書画像には、2025年5月19日付、三菱商事株式会社「食品産業グループ 食料本部」名義で、ニッチクから第一審勝訴と控訴取下げによる判決確定の報告を受けた旨、及び引き続き法令遵守の上で事業を展開する旨が記載されています。
これは同社の回答内容の紹介です。本件の原因や責任を同社が認めたことを示すものではありません。
関連する公開済み論点・投稿
公開先を特定できた関連投稿を掲載します。いずれも当事者側による公開・説明であり、第三者報道や裁判資料の全文公開とは区別します。各論点の詳しい説明と出典はリンク先をご覧ください。未公開資料の一覧は掲載せず、公開後に追加します。
- 論点0010:被告企業の準備書面における原告の「専門性」の記載 — 9通の準備書面を対象に、原告をフクロウの専門家等と位置付けた記載を検証した公開資料。note全文版/Instagram版
- 論点0121:製造前の確認経路と1,000倍の単位差 — 準備書面と尋問調書を対比し、360 mg/kgから360,000 mg/kgへ至る過程と確認工程を検証した公開資料。note版/Instagram版
- 論点0081:「発注時」か「製造後」か — 録音と法廷供述の比較(2026年9月4日)— 事故前の注意情報を伝えた時期について検証する投稿。
- 情報伝達の時系列を一次資料で検証【論点0125】(2026年9月7日)— 発注時の窓口、企業間の情報伝達、成分変更・削除の説明に関する投稿。
- 企業間メール/証人尋問調書/第一審判決書の該当箇所に関する公開投稿(2026年8月6日)— 製品ラベルの販売元表示と販売経路に関する投稿。資料全文への直接リンクではありません。
